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【曲作りはトイレ!?】シンガーソングライター大塚紗英『アバンタイトル』完全解説!

大塚紗英

【曲作りはトイレ!?】シンガーソングライター大塚紗英『アバンタイトル』完全解説!

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大人気のメディアミックスプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」で花園たえ役の声優を担当し、その延長で「Poppin’Party」のユニットでも活動する大塚紗英さん。彼女が『アバンタイトル』というソロミニアルバムをリリースしたということで、お話を伺いました。MVが話題の「ぬか漬け」ほかアルバムのことが中心ですが、彼女の話はどんどん深くなっていって……!?

「アバンタイトル」というタイトルに込められた意味とは?

──今回、初のソロミニアルバムがリリースされますが、タイトルの『アバンタイトル』というのは、「知らない人は知らないが、知っている人が聞くと『どうしてそのタイトルなの?』と思うワード」という気がします。どういった意味合いでつけられたものでしょう?
 
大塚 『アバンタイトル』というのはアニメでもよく使われる用語で、オープニングとかが流れる前の序章、みたいな意味なんです。なので、これから自分の個人活動が始まる時に、このアルバムっていうのは「あくまでその自己紹介の1枚だよ」っていう意味が、自分の中であるんです。この1枚で評価をされてどうのっていうよりは、まず自己紹介として、「こういう人間でございますよ」っていうところですね。あと、アニメ業界でずっと活動させてもらっているので、その感謝というか、そういうダブルミーニングみたいな意味を込めて、つけさせてもらいました。
 
──ではある意味、今回のミニアルバムのコンセプトが込められたような感じなんですか?
 
大塚 あんまりそういうわけでもなくて(笑)。今まで自分のライブとかでやってきた曲の中で、なるべくいろんな顔、自分の一面みたいなものをたくさん入れようと思ったんですね。1曲のタイトルとか、コンセプトで強めのタイトルをつけてしまうと、そういうカラーの人間だと思われてしまうかなっていうのがちょっと怖かったので、いろいろある6曲を聴き終わってから「で、どういう人間なんだろう?」っていう、ちょっとした違和感みたいなものを、逆に抱いてもらいたいなっていうのがあるんです。そういう意味でつけました。
 
──ということは、今回の収録曲はこのアルバムのために作ったというわけではなく、これまでのレパートリーの中から選んだ6曲ということですか?
 
大塚 そうですね。15歳の時から路上ライブをやっていて、そこから数えると4年ぐらいはやってるんですけど、その期間も含めてずっと曲は作り続けていて。今回は路上時代の曲はなくて、この2年間ぐらいに作った曲です。アルバムが出るとかデビューができるようなお話をもらえるなんてことはずっと思ってなくて、ライブをするために曲を作ってました。その時々に、「こういう曲が歌いたいな」と思ったり、事務所のスタッフさんと「こういう曲作ったら面白いんじゃない?」というアイデアをいただいたりして、それに沿って作ってきたっていう感じです。
 
──なるほど。
 
大塚 でも、ワンマンライブとかになった時に、ある程度曲数とか時間に限りがある中で何曲だけやって「こういう人間だよね」みたいに定義付けされるのがすごく苦手というか、アルバムにもすごく通じてるんですけど、あんまり決め付けられたくないんですね。ライブを全部見た後にも新しい可能性とかを思い描いてもらえるようにと思って、いろんな曲を作ってるっていうのはあります。

 


──「ぬか漬け」のMVが公開されたときに、バッと再生回数が伸びましたよね。コメント欄には、そこで初めて大塚さんの曲に接した人の反応なんかもありますが、そういうのはどう見てますか?
 
大塚 今の時点では、リリースまでの時間にどれだけの人に見てもらって、知ってもらえて、気に入ってもらったり興味を持っていただけるかっていうプロセスだと思っているんですね。だから何か評価をいただいたりすることは素直にうれしいですけど、それよりもこの一つの作品というかプロジェクトを、限りある時間の中でどこまで広げていけるかっていうことをすごく考えているので、「義務」とか「責任」とかをすごく考えちゃって。だから今は、“ぬか”喜びはできない感じですね。
 
──うまい(笑)。それにしても、あの「ぬか漬け」というタイトルは、意表を突いてますよね(笑)。
 
大塚 この曲に関しては、そういう部分をすごく考えて作っています。ライブで「アナタ茸」っていう曲をやってるんですが、それが曲調的にはけっこうアッパーな、J-POPロックで「ウェー!」みたいな感じなんです。歌詞は恋愛のキノコが体中から湧いてくるっていうもので、それがサイケデリックでウケたというか、「面白いね」って言っていただけたので、そういう系列の曲をもっと増やしたいなということになって。キノコの次だからまた食べ物の方がいいかなと思って、食べ物で面白そうなのをすごく探してて。あと、「ぬ」から始まるタイトルの曲があんまりないから……。
 
──それは世の中に、ということですか?
 
大塚 あ、そうです(笑)。それで何となく、ぬか漬けってすごく臭いじゃないですか。臭い食べ物で連想する感じが、ワード自体に味があるかなと思って。で、実際に曲を作ってる時にも、「ぬ」あまり使わない音だから、歌詞に「ぬ」がつく言葉を一生懸命入れたんですよ。だけど、「ぬ」ってめっちゃ発音しづらくて、歌うのに苦労しました(笑)。
 
──自分で作ったのに(笑)。
 
大塚 はい(笑)。歌ってみたら「あ、歌えないじゃん」みたいなことがすごく多くて、毎回自分に困らされてます(笑)。
 
──まあ、「ぬか漬け」ってタイトルの曲は他にはないですよね(笑)。
 
大塚 SNSにはハッシュタグがあるじゃないですか。インスタとかツイッターとかで「ぬか漬け」ってハッシュタグを調べたんですけど、今のところ本物のぬか漬けしか出てこなかったので、「世の中にはまだ『ぬか漬け』って曲はなかったんだ!」と思って、ちょっと先駆者みたいな気分でうれしかったです(笑)。あとは世の中の皆さんに広まってもらえれば。
 

“しんどい話”連発? アルバムの6曲を完全解説!

──では、それも含めて全6曲、どういう曲か解説していただけますか?
 
大塚 わ、すごい! マジメな話ですね、今日は。
 
──何だと思ってたんですか(笑)。
 
大塚 いえ、決してふざけに来てるわけじゃないんですけど(笑)。えーと、最初は「フォトンベルト」ですね。自分の心情的な話なんですけど、今まで曲を作る時って、あんまり満たされなかったりとか、フラストレーションとか憤るような気持ちとかの発散に使うこともすごく多くて、負の感情から生まれる作品の方が、実はすごく多かったんですね。でもこの曲は、ここ数年の中でも唯一、「楽しくてしょうがない!」みたいな幸せな気持ちだけを詰め込みたくて作った曲なんです。
 
──そうしたいというきっかけみたいなものがあったんですか?
 
大塚 去年の4月に、「大塚紗英ファンミーティング.『SAEVo.yage!vol.4~船内緑化計画~』」というタイトルで、初めてフルライブをさせてもらったんです。で、その時にバンドメンバーさんと一緒にライブをさせてもらったんですけど、「サポート」って言い方も好きじゃなくて。いつも「バンドと思って演奏する」ってずっと言ってるんですけど、このライブの時にそれを本当に実感できたというか、ずっと口にしてきて初めてやっと実現できたみたいな部分があって。初めて誰かとその幸せを分かち合えたのが、ものすごくうれしかったんですよ。それをどうしても曲にしたいし、またこのメンバーで演奏したいなと思って、そのライブの次の日に作りました。
 
──その気持ちのままに。
 
大塚 だから、曲調とかもディズニーランドの「ピノキオ」の世界みたいな感じで作ったんですけど、アルバムの導入としてはエイトビートでもないし、キャッチーでもないなと思ったので、アニメから私に興味を持ってくれた皆さんにもどうやってノったらいいかっていうのを伝えたくて、掛け声とかを急きょ入れました。「いっせーのーせ!」とか「ハイ!ハイ!」とかを、「ここでこうノってね」っていうイントロダクションとして。

──声優としての大塚さんのファン層と、シンガーとしての活動をつなげる役割があるんですね。
 
大塚 はい。オープニングのオープニング、序章の序章みたいな感じですね。私はアニソンの人間ではなくてJ-POPの人なんだよっていう説明をしつつ、今まで応援してきてくれていたりとか、今まで自分がお世話になってる方々に橋を渡せるように、そういうアニソンシーンのノリを入れたのと、あとリリックの中に「BanG!BangG!」っていう歌詞をわざと入れてるんですね。これは、私を見つけてもらってずっとお世話になってるコンテンツのBanG Dream!(バンドリ!)」さんにかけて、「G」を大文字にするという小細工をしてます(笑)。
 
──「フォトンベルト」というタイトルも、知ってる人はニヤリとするような(笑)。
 
大塚 「都市伝説」のTV番組を見てたときに、「人間はもう人間じゃなくなるんだ」みたいな話があって、「へ~!」と思ってつけました(笑)。
 
──次は先ほども出た「ぬか漬け」ですね。

大塚 これは、自分がめちゃくちゃイラ立ってる時に作ったんです(笑)。誤解されることがすごく多かったり、やってないこととか言ってないこととかをすごく押し付けられやすい性格だし、4人兄弟の長女なので「まとめ役」的なポジションを期待されることが多かったんですね。そういうイラ立ちとか、いろんなことが重なって。あと、これは極論なんですけど、日本って経済も豊かですけど、世界中には飢饉の土地とかもある中で、食べ物を食べれるだけでもすごく幸せなことじゃないですか。だからこんな恵まれてるというか、甘やかされてるところにいると、私たちはどんどん感謝とかそういう貴い気持ちを失っていくよってことを伝えたくて。でも、伝えたいと思った人に直接伝えてしまったら大変なことになっちゃうので、曲にしようと。誰にも言えなかったそういう気持ちを、何かうまい比喩というか、笑って聴ける曲にできないかなっていう強い思いはずっと持ってたので、「ぬか漬け」ってワードが思い浮かんだ時に、自分がずっと抱えていた苦しい気持ちを詰め込もうと思って作りましたね。

──意表を突くタイトルの曲に、そこまで深い思いが込められていたとは(笑)。次は「マーキング」です。
 
大塚 このアルバムって中休み曲がないからしゃべるのもしんどいんですけど、聞くのもしんどくないですか? 重たい話ばっかりになっちゃって大丈夫ですか?
 
──いえいえ、大丈夫です(笑)。ファンの方も知りたいと思うので。
 

大塚 じゃあ(笑)。「マーキング」は……ゆったり聴ける曲がほしかったので、この曲に関してはメロディーとかコード先行で作曲したんです。歌詞はあとから当てて、最初は「昭和の世界観」だけでワンコーラスだけ作って。それを、ディレクションしてくださる方が「この曲は面白いからフルで作ろう」って言ってくださった時に、「でも、今、若い君が昭和のことを歌ったら『生意気だ』って思う人もいるじゃん? だから、実はそれは全部ウソでした!みたいなオチが曲にあったら面白くない?」みたいな話になったんですね。本当にそうだなと思ったんですけど、なおかつ等身大の自分でも歌えるような曲にしたかったから、恋愛の歌詞にしました。自分の中にあったシーンとしては、1番2番は回想で、3番になって我に返るという感じです。でも自分が年老いたという歌詞だとあまりに味気ないなと思ったので、「しわがれ横町」っていう言葉で時間の経過を表現したというか。でも世代とか性別とか選ばずに誰でも聴いてもらえる曲にもしたいなと思って、歌詞を考察したいと思える世代の方には、歌詞を文章として読んで面白いと思えるような曲にしたつもりだし、逆に、今の中学生高校生とかの若い子たちには「何かよくわかんないけどいいよね」って言ってもらえるように、メロは和っぽいけど聞き馴染みのあるようなメロディーにして。これもけっこう考えて作りましたね。
 
──最初はメロディー先行でラフに作ったというわりには、最終的にはすごく手の込んだものになったんですね。
 
大塚 そうですね。この曲は歌詞をけっこう書き直しました。このアルバムの中で一番、歌詞に悩んだかもしれないですね。「フォトンベルト」なんか30分ぐらいで歌詞書いちゃって1回も直してなくて、逆に「大丈夫かな?」ってすごく心配になりましたけど(笑)。

曲作りは、トイレに行くようなもの?

──次が、デビュー曲になった「What’s your Identity?」ですね。


大塚 この曲はこれまでとは逆に何も考えずに、激情の赴くままに作った曲です。「バンドリ!」の中で私が演じてる「花園たえ」ちゃんというキャラクターが2ndシーズンですごくフィーチャーされるので、シリーズ構成を務めている綾奈ゆにこ先生と一緒に取材を受けさせてもらったんですが、それがきっかけで綾奈先生と仲良くさせてもらっていて……ちょっとアニメの話になるんですけど、花園たえがRAISE A SUILENっていう新しいバンドにちょっと参加するんですけど、本当はもともといたPoppin’Partyが大好きで、最終的にはもちろんPoppin’Partyを選ぶというストーリーなんですよ。花園たえちゃんっていうのは音楽から育ってる子で、私も実際にストリートをやってきたりとか、高校生からガッツリ音楽少女で、たぶん世間一般的に見たら私にはちょっと花園たえ的な、浮世離れしてる(笑)面がちょっとあったので、綾奈先生から「そういう子が実際に現実に生きてたら何を感じるかとか、どういう風に曲を作ってるかとかを、現場も含めてぜひ見させていただきたい」という話をいただいて、その話をいろいろしている中で生まれたのがこの曲なんです。ちょうど時期的にも、仕事の関係でいろいろ考えたり心細さを感じていた時に綾奈先生にお会いして、「一人じゃなくなったな」って思ったところでした。その出会いがすごく自分の中で大きくて、その感謝を込めて作った曲でもあります。先生との会話の中で、「私も自分のアイデンティティーがぐちゃぐちゃになっちゃって、自分を見失っちゃったことがあった」っていう経験をお話してくださった時に、「アイデンティティーがぐちゃぐちゃになる」っていう言葉の強さにすごく感動しちゃって、「ちょっと、これ曲にしてもいいですか?」って言って、その日に1時間ぐらいで作って送ったんです。
 
──強烈なインスピレーションがあったから、すぐに書けたわけですね。
 
大塚 この曲にはすごく思い入れがあって、自分の本当の本質に迫った、自分の素の言葉でしか作ってない曲なので、かなり丸裸の自分というか。だから「大塚紗英ってどういう人間?」って聞かれた時は、たぶんこの曲が一番正解に近いと思うので、何となくこの曲がデビュー曲になるんじゃないかみたいな気持ちは、不思議とその時からずっとあったんですよ。でも、スタッフさんとかはそういうのは一切思わなかったみたいなんですけど(笑)。だから、タイアップが決まった時も皆さんは「おめでとう」って言ってくれつつもすごく驚いて、「この曲になってビックリだね」って言ってたんですけど、私は正直確信があったので、驚かなかったです。うん、でもすごく大事な曲です。この曲で天下を取ろうとか、たくさん広まってほしいというような野望とかは全然ないんですけど、自分の近しい人たちにはこの曲でかけられる言葉があったらいいなという思いがあって。だから作品として残せたのは、すごくうれしいですね。
 
──普段から、強いきっかけがあったらバッと曲ができるタイプですか?
 
大塚 はい、本当にそうです。常に曲を作らなきゃいけないっていう感覚が自分の中にあるんですよね。何が一番近いかな? うーん……トイレに行くのと一緒ですかね?
 
──トイレ?

大塚 変なたとえでごめんなさい(笑)。でもトイレに行くのって、我慢できるじゃないですか。映画見てる間は我慢しよう、みたいな。曲とかも我慢しようと思ったらできるという感覚なんですよね。我慢はできるんですけど、ある程度こうやってちゃんと吐き出さないと、自分が不健康になるみたいな。本当にその感覚に近くて。
 
──あー、なるほど。溜まっていくものを、ずっと溜めたままにはしておけないと。
 
大塚 だから、曲を作ることを止めてはいけないっていう義務感みたいのがずっとあるんです。そういう風に普段から生きているので、何か強いことがあると「もうムリ! トイレ行かなきゃ!」みたいな感じで曲を作るって感じですね(笑)。うーん、キレイな話じゃないな、どうしよ(笑)。
 
──いえ、すごく分かりやすい話だったので、大丈夫です! では次の「ドン引きされるほどアイシテル!」に行きましょうか。
 
大塚 これも、もともと路上とかで歌ってたのに近い曲調ですね。暗い曲が多かったので「明るい曲を絶対作ろう!」って先に決めてて。私、川谷絵音さんの曲をめちゃくちゃリスペクトしてるんですけど、ゲスの極み乙女。さんの曲って、タイトルから「はい、キャッチーです!」みたいな魅力があると思うんですよ。もうホイホイ吸い寄せられちゃうような。「私以外私じゃないの」とかも、すごく引き込まれるような強い言葉じゃないですか。「そういうワードがほしい!」と思って、ワードだけを2~3日、ずっと考えてましたね。それで、「ドン引き」って言葉が思い浮かんだんですが、今度は「ドン引きするほど●●」っていうのが全然思いつかなくて、またずっと考えて。でもやっぱりドン引きするなら愛されたいし、ドン引きするぐらい誰かを愛するって言葉はすごくハッピーだと思ったんです。しかも、タイトルをサビに乗っける曲に絶対するって決めてたから、そういう風に作りました。
 
──なるほど。
 
大塚 私、小説的な曲の書き方をしないことも多くて、心情吐露みたいな形で作ったものをキャッチーにするために、何かに比喩させてっていう手法で、すごく頭でっかちに曲を作るんですね。でもそのくせ、あんまり情景が思い浮かぶような曲は少ないなと思って。もっと小説みたいに……「ドン引きされるほどアイシテル」ってフレーズはちょっと強いから、その分サラッと、少女漫画読んだぐらいのライトな気持ちで聴ける曲もほしいなと思って、「ザ・少女漫画」的な情景を曲の中で淡々と描きました。
 
──先ほども出ていましたが、「ここにこういう曲がほしい」という作り方が多いんですね。
 
大塚 そうですね。基本的に穴埋めみたいな感覚で曲を作るんですけど、でも最終的に私がビジョンを描いてるのはライブになるので、あんまり円盤化してどうこうというのは本当に考えてないんですよ。ライブの中で、足りない穴の部分に曲を埋めていってるっていう感じがあるので、それがイコール円盤でも、足りない穴になるじゃないですか。最終的には、お客さんに楽しんでもらえるライブをするための曲っていう感じで作ってます。
 
──では最後、「7月のPLAY」です。

大塚 まだもう1曲あったか、けっこうしゃべったな(笑)。この曲も小説的な感じで作ってますよね。でも実は、すごく情動的に作ったというか、今までの頭でっかちな、天才になりたいけどなれない自分じゃなくて、サラっと書けました。こういうクレイジーなメロディーは、やっぱりそういうエモーションに任せないと作れない部分があるので。「何でこんな高音にしたんだろ? 歌えないのに」って思いました(笑)。でもやっぱり、思い通りにいかないことがすごく多くて、言いたいことが言えないっていう気持ちがめちゃくちゃ詰まってるので、そういう自分の本心とすごく結びつくから、ストーリーがどうであれ、いつも飾らない自分で歌える曲です。「こういう恋愛経験があるんですか」ってすごく聞かれるんですけど(笑)、本当の自分の気持ちがより乗りやすい曲になってるからっていうのはあるからですかね。この曲はそういうフラストレーションが溜まってた時期じゃないと作れなかったので、あの時、そうやって考えて作ってよかったなと思います。あと、メッチャ余談なんですけど……。
 
──何でしょう?

大塚 このタイトル、どうして「7月」なのかっていうと、一つはバンドリ!に8月の曲があったから8月以外でというのと、あと……セブンイレブンで思い浮かんだんですよ。

──はあ(笑)。
 
大塚 セブンイレブンのコピー機で印刷してる時に思い浮かんで。「711」だから、それで「たった七つしか違わないのに、君は一度も一度も好きって言ってない」という歌詞を入れたんですよ(笑)。これは別に自分の中だけの世界というか、だからセブンイレブンさんにどうこうしてほしいということじゃなくて、自分の中の日記に、日付のところに「7・11」って入れただけみたいな(笑)。だから別に、年の差はいくつでもよかったんですよ(笑)。
 
──エラい余談が出てきましたね(笑)。そういうのを織り交ぜるのも好き?
 
大塚 そうですね。シニカルなジョークがちょっと好きなんですけど、でも実は、自分の中の発想にもともと持ってないんですよ。自分自身の性格は、もうちょっとふわふわしてて。だからこそ、ちょっと大人な感じの空気感とかに昔からすごく憧れがあって。だからあえて、そういうのを何か入れたくなってしまうんですね。そういう隠した意味みたいなものは、別に誰かに気づいてほしくてやってるわけじゃなくて、自己満なんですけどね。たぶんあちこちに入っていて、探したらまだあると思います。そういうのを入れると、絶対にその時の自分にしか作れないものになるじゃないですか。あと、私はあくまで作家ではないというか、自分で曲を作って歌う人間だから、そういう大塚紗英のエッセンスがより濃いほうが、聞き手も聞き応えがあるだろうなっていう、両方の意図があるんです。

シンガーとして、将来は?

──6曲分伺いましたが、これだけ聞いていると確実にフルで音楽活動しているアーティストにしか聞こえないですね。でも実際は、そういうわけではないじゃないですか。
 
大塚 (笑)。どっちかって言うと、全然声優さんをさせていただいてる時間のほうが長いんですよね。
 
──その住み分けは、普段どうしてるんですか?
 
大塚 たぶん、曲を作ったりっていうことを、仕事としては一切考えてないんですよね。人間には三大欲求があるじゃないですか。食欲、睡眠欲、性欲。私の場合はもう一つ、曲を作る欲が加わっている感じなんですよ。で、声優さんだったり、ギターを弾いてることも含めて、その活動の全ては「いただいてるお仕事」。その活動の全てはそうやっていただいてるチャンスみたいな感じで思ってるので、「住み分けてる」っていう意識もなくやってます。仕事って言い方をするとちょっとドライに聞こえちゃうんですけど、今いただいているお仕事も大好きだし、それはそれですごく楽しくやっていて、もっとできるようになりたいこととかもすごくいっぱいあるし。どっちもやってるからって、どっちも中途半端だと思われるのはすごくイヤなんです。
 
──分かります。
 
大塚 だから、このアルバムとかでシンガーソングライターとして出会った私を見ている人には「シンガーソングライター」として見られたいし、声優から入ってきた人も「いろんな活動をやってるからね」みたいには絶対思われたくないんです。声優として知られて「えっ、こういうのもやるの?」「ギターを弾くんだ!」みたいに驚いてもらえたら、それが本当のエンタメだと思ってるから、何かを妥協したいとかは一切思ってなくて。だから今回、アルバムの特典にもボイスドラマみたいなのを付けさせてもらってるんですけど、それをやるからには、「歌を歌う人の特典のボイスドラマ」ではなく「声優がやるボイスドラマ」にちゃんとしたいっていうのがあったので、実はメッチャ練習しました。
 
──では、声優の活動と、アーティスト、シンガーとしての活動はリンクさせたいというわけではない?
 
大塚 リンクさせてどうこうっていうのは、思ってないですね。仕事をする上でそこが繋がって商売になって……みたいな視点があることは分かってるんですけど、私は画商か画家かって言ったら、間違いなく画家側の人間なんですよ。私は「商品」側なんです。商品には意見がないというか、意見をしてはいけないと思ってるので、そこはもう皆さんがうまく調理してくださいって思ってるんです。自分はあくまで芸を磨いて、何にでも料理できるように、ちゃんともっといい商品になるということを意識してやればいいと思ってるっていうか。
 
──では、シンガーとしてはこれからどうやっていきたいですか?

大塚 目標というものはないといけないので、でも基本的にはライブがしたいから、より大きいところ……いつもライブで言ってるのは、「武道館でやりたい」ってことですね。あとはフェスに出たいです。CDJとかにはバンドリ!の活動とかで出させていただいてて、あとD4DJっていうプロジェクトで燐舞曲というのもやらせていただいてて、そこでもギターを弾いてるんですけど、いろんな場所に行かせていただいたり、すごく有名な方に曲を提供していただいたりとかしてて。どっちでもどんどん新しい世界を見させてもらえているんですけど、そういう夢を自分の名前でも実現させたいというのはあります。でも自分の名前で活動する根本には、自分が関わってる皆さんに楽しい気持ちを届けられたら一番いいなっていうのが、常にあるんですね。やっぱり人間として生きる以上は、最終的に幸せに生きることが、私の中では一番大事なことで。つらいこととか大変なこととかもある上で、それをも含めて「楽しいよね」って言えるコンテンツであるべきだと思ってるんです。だから、自分の名前で一番最終的にやりたいのは、そこです。

──なるほど。
 
大塚 自分の名前で楽しんでもらう。幸せになってもらう。でも自分も楽しみたいし、じゃあ自分の人生がどうしたら楽しくなるかなって言ったら、そりゃやっぱり音楽をやっていくことなんですよ。そこは私も譲れないものだから、その上でお客さんを含めて楽しいチームを作っていくっていう。そして、その「楽しい」の規模を増やしていきたいから、イコール売れたい。イコール大きいステージに立ちたい。根幹はそこですね。
 
──いろんなことがよく分かりました(笑)。では最後に、読者の方へのメッセージをいただけますか?
 
大塚 いっぱい買ってください!……だけじゃダメですよね(笑)。日頃、常に自分のことを応援してくれてる方には「初動が大事!」ってすごく言ってるんですね。でも実際、本当に大事だし、ここで結果を残せないと頭に描いている次のステージには絶対に行けないので、一つの大きな課題ではあるんですけど……一番本当のことを言うと、やっぱり私は自分の曲をたくさんの人に聞いてほしいんです。月並みな願いですけど、やっぱりそれが一番思ってることで。私は、こういう独特な考え方とかもたぶんいっぱい持ってる中で生きてきて、その考え方を認められてやっと息をすることを許されるみたいな、そういう気持ちがすごくあるんです。だから今回のミニアルバムを出したことで、やっと私は普通に生きることを許されるみたいな気持ちがあって。だからぜひ、「生きてていいよ」って肯定するような気持ちで買ってほしい……わけではないかー。
 
──何と(笑)。
 
大塚 別にそこまでじゃないか(笑)。まあ、あれですね。選挙の一票を取りあえず入れとく、ぐらいの気持ちで買ってくれれば、もう幸せです(笑)。
 
──ありがとうございました!

デビューミニアルバム
『アバンタイトル』
2020.2.26 on sale

 
<ライブ盤(CD+Blu-ray+PHOTOBOOK)>
 AVCD-96441/B
¥5,000+税
<MV盤(CD+Blu-ray)>
 AVCD-96442/B
¥3,500+税
<通常盤(CD)>
 AVCD-96443
¥2,500+税
 
 
【大塚紗英オフィシャルサイト】
https://saechigo-crew.com/
 
【大塚紗英Twitter】
https://twitter.com/OSae1010
 
【大塚紗英Instagram】
https://www.instagram.com/o_t_s_u_k_a_s_a_e/
 
【大塚紗英Official Channel(YouTube)】
https://www.youtube.com/channel/UCfxVCmWSjk7H6tCjjbSyHXw

 

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記事情報

高崎計三

ライター

高崎計三

1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。